岩崎良美

Blog

モンベルはなぜ値上げしないのか|2026秋冬の新作発表会で"中の人"に聞いた5年分の答え

2026.08.07

値上げのニュースばかりのこの時代に、去年より安くなった新作がいくつもありました。

しかも「何かを削ったから安い」わけではありません。むしろ中身は良くなっている。モンベルの2026年秋冬 新製品発表会に招待いただいて取材してきたのですが、正直、製品そのものより「なぜこの値段でいられるのか」のほうが気になってしまいました。

その場で「なぜですか?」と聞いてしまい、返ってきたのが5年分の答えでした。今回はその中身と、カタログにもサイトにも載っていない工夫を書いていきます。最後まで読むと、モンベルの服を選ぶ目が少し変わると思います。

中身が良くなったのに、2,500円下がったダウン

いちばん分かりやすかったのが、コロラドパーカというダウンパーカでした。街でも着られるリバーシブル(表裏どちらでも着られる仕様)で、今回モデルチェンジしています。

変わったのは中身です。フィルパワーが650から800に上がりました。

フィルパワーというのは、羽毛の膨らみ具合を表す数字です。大きいほど少ない羽毛で暖かくなるので、同じ暖かさなら軽く、薄くできます。650から800は、はっきり上のグレードへの変更です。

中身が良くなったのだから、当然値段は上がりますよね——と思ったら、2,500円下がっていました。

現在はレディース22,000円、メンズ25,000円。意味が分からなくないですか。私もその場で「なぜですか?」と聞いてしまいました。

前提として、今アウトドア業界はコストが上がる要因しかない状態です。原材料も、輸送費も、円安も。おまけに環境対応で素材そのものを切り替えている最中で(この話は後半で詳しく書きます)、当然そこにも開発費がかかります。普通なら値上げ一択のはずです。

答えは「5年がかりの企業努力」だった

返ってきた答えを要約すると、私たちの目に触れないところで、地道に作り方を変え続けてきたということでした。

印象的だったのは、担当の方のこの言葉です。

> 「開発レベルでは、お客さんにはわざわざなかなか言わないですけど、ほとんどの商品でコストダウンもそうですし、本当に上がっちゃう予定だったものが据え置きになっていたりとかも」

しかも一部の商品の話かと思ったら、ほとんどの商品だと。期間を聞いたら「5年ほど」とおっしゃっていました。値上げのニュースが当たり前になるずっと前から、静かに多くの商品で取り組んでいたことになります。

そして、それをわざわざ言わない。

ただ、正確に書いておくと、ほとんどの商品が値下げされたわけではありません。多くは「上がるはずだったものが、上がらなかった」です。個人的には、そちらのほうがむしろすごい話だなと思いました。

性能を落とさずに、作り方の方を変えている。フードの調整に至っては、むしろ前より良くなっているそうです。

カタログに載っていない話①|ファスナーが落ちてこない

ここからは、直接伺えたから知ることができた話を2つ書きます。どちらもカタログにもホームページにも載っていません。

今回、コルチナというシリーズにコルチナ ダウン ハーフコート(29,500円)という女性向けの短い丈が新しく加わりました。これまでは膝上まであるダウンコートだけだったので、お尻が隠れるくらいの丈が増えた形です。

そのお話を伺う中で出てきたのが、丈の長いダウンコートのファスナーの工夫でした。

丈の長いダウンコートには、下からも開けられるダブルファスナー(スライダーが2つ付いていて、上下どちらからでも開閉できる仕様)が付いています。あれ、下側のスライダーが、手を離すとスルッと落ちてくることがありませんか。

操作しづらい。力任せに引っ張って壊してしまう。特に年配の方から、その声が多かったそうです。

実は私も、このタイプのダブルファスナーのダウンを着ていたとき、同じように使いにくいなと感じたことがありました。

それで、下側のスライダーを特殊な形状に変えたそうです。だから手を離しても落ちてきにくい。

こういった工夫は、カタログにもホームページにも載っていません。「気にしてくださった方にだけお伝えしているんです」と、笑顔で話してくださいました。

カタログに載っていない話②|インナーは「ライトグレー」が一番透けない

もうひとつが、インナーの色の話です。

白いシャツやブラウスの下に着るインナー、ベージュや肌色を選んでいませんか。 肌の色に近いほうが透けない。私もずっとそう思っていました。

でも3年前、モンベルが社内で徹底的に検証した結果、一番透けが気にならないのはライトグレーだったそうです。

理由は、肌色は自分の肌との微妙な色のトーン差で、かえって輪郭が出てしまうから。黒やネイビーは色が濃いので、逆に透けが出てしまう。ライトグレーは「透けない」というより「透けが気にならない」のだそうです。

だからモンベルのアンダーウェアには、いろんなところにライトグレーがある。理由があったんですね。

ただ、ベージュが全部ダメというわけではなくて、少しピンクみのあるベージュなら透け感は出にくいそうです。そこは作り分けているとおっしゃっていました。

直して使う、が普通に選べる

意外と知られていないそうなのですが、モンベルは修理の拠点が国内にあります。

北陸に自社の総合センターがあり、そこで修理ができるので、比較的早く手元に戻ってくるとのこと。しかも預けるのは直営店ならどこでもよく、カウンターに持って行ってそのまま渡すだけ。買ったお店でなくても大丈夫です。直営店は130店舗以上あります。

ただし、公式サイトによると受付から納品まで4週間から6週間が目安なので、シーズン前に出しておくのが良さそうです。

現物も見せていただきました。「ここ、修理したって分かります?」と聞かれて、正直まったく分かりませんでした。ダウンもレインウェアも、シームテープ(縫い目からの浸水を防ぐ帯状のテープ)まで貼り直して、普通に着用できる状態に戻してあります。

ここで、あれ?と思いませんか。

値段を抑えて、しかも修理しながら長く使ってほしい。 それって、新しい商品を買う機会が少なくなることにもつながりますよね。

そのことを聞いてみたら、「不思議な会社で」と少し笑いながら、こう話してくださいました。

> 「メンテナンスすると、すごく長持ちするじゃないですか。そうすると、新しいものもなかなか買わなくなる。長く使ってもらおうっていう」

自然が好きな人が多い会社だから、という言葉が印象に残りました。

撥水が落ちるのには、理由がある

「最近、レインコートやアウターの水の弾きが悪くなった」と感じたことはありませんか。買った時は水玉がコロコロ転がったのに、今は生地が濡れて色が変わってしまう。

それ、使い方のせいではないかもしれません。

今アウトドア業界は、撥水加工に使うフッ素系の薬剤をやめようという流れの真っ最中です。海外では法律で使えなくなっている地域もあります。モンベルもおととしあたりから置き換えを進めているそうです。

環境のためには正しい。ただ、水をはじく力は実際に少し落ちます。

環境のために薬剤を変えた副作用として性能が下がる。それを隠さずに言った上で、「だからこそお手入れを今まで以上にこまめに」というのが答えでした。この誠実さは書いておきたいと思いました。

手入れのポイント

意外と知られていないこととして、モンベルのダウンは洗濯機で洗えます。 ダウンを洗うと聞くとハードルが高い気がしますが、ネットに入れれば大丈夫。

そして強く勧めていたのが、熱で乾かすことです。見た目が乾いていても中綿が湿っているとダマになって、カビや臭いの原因になります。そして熱を加えることで撥水性能が戻ります。

ただし製品によって洗濯表示は違います。乾燥機が使えないものもあるので、必ずタグを確認してからにしてください。

撥水剤も、スプレーより漬け込みタイプのほうがいいそうです。最後に熱処理までできるからです。小物ならドライヤーでも代用できます。

洗剤を買うのが面倒という人向けに1回使い切りのパックもあり、それも面倒なら、モンベルの撥水コースが使える専用のコインランドリーもあります。洗濯と乾燥だけでなく撥水加工までまとめて行えるサービスで、対応店舗も増えているそうです。

新作は「誰かの声」から生まれていた

ここからは実際に見てきた新作の話です。ただ並べるだけではなく、ひとつの視点で見ていただけたらと思います。

新作が生まれた理由をたどっていくと、そこには誰かの声がありました。しかもその声は、登山をする方だけのものではないことが多かったんです。

たとえばモンベルには半袖のジャケットがあります。防寒着で半袖って、普通は不思議ですよね。これ、お豆腐屋さんからの「欲しい」という声が始まりだったそうです。水を扱う仕事だと長袖は濡れてしまう。でも半袖だと寒い。その現場の声から生まれました。

そして今回、そこから一歩進んで九分丈が登場しました(U.L.サーマラップ ラウンドネック セミロングスリーブ ジャケット・14,500円)。家で洗い物をするとき、袖をまくる動作を何回していますか。あれがいらなくなるという話です。

素材はメリノウール(羊の毛)。ウールは汗の匂いが出にくい性質があって、朝かいた汗の匂いが夜まで出てこない。スーツで一日過ごす方には結構効くと思います。

七分丈のほうは、「気に入っているけどシャツの袖から出てしまってカッコ悪い」という声を受けて丈を調整したもの。こちらはビジネスマンの声です。

いちばん驚いた新作はスネーク ガード ゲーター(12,600円)でした。毒蛇のハブから足を守るための、すねに巻くカバーです。ハブの生息地域の方から「蛇に噛まれない足のカバーが欲しい」という要望があって作られたそうです。イタリア産の革を使っています。

そんな要望にまで応えるのか、と思いました。ここまで来るともう、アウトドアメーカーというより現場の道具屋さんですよね。

今期の一押しは「クリマエア ライト」

取材の最後に「今期のイチオシは」と聞いて名前が挙がったのが、クリマエア ライトという新素材でした。

見た瞬間、薄い。向こうが透けるくらいです。なのに風がなければ、暖かさは定番フリースのシャミースと同等。秘密は毛足の長さで、長い毛の間に空気をため込むから、薄くても暖かいのだそうです。

そして重さ。長袖で102g、卵2個分です。普通の長袖Tシャツより軽い。これで4,200円(Women's 4,000円)。

カバンに1枚放り込んでおく上着として、かなり優秀だと思います。オフィスの冷房対策にも、山ではリュックの隙間に押し込んでおける保険にも。

ただし通気がいい分、風には弱いです。 風がある日は、上に風を通さない上着(アウトドアではシェルと呼びます)を重ねる前提で考えてください。

街で使うもの/山で使うもの

今回見てきた新作から、価格つきで簡潔にまとめます。

街で使う

山で使う

道具は、行き先が決まってから選ぶのがいいと思います。どこに行くか決まらないうちに上のグレードから買うと、使わないまま終わってしまうので。

※価格はすべて税込・2026年8月時点。店頭に並ぶのは9月以降順次です。最新の情報はモンベル公式オンラインショップでご確認ください。

まとめ|値段が上がらないのには、理由がある

今回の取材でいちばん印象に残ったのは、お客様から戻ってきた製品を、開発に携わる方が一点ずつ手で確認しているという話でした。

ひとつひとつ目を通しているからこそ、お客様の声を製品作りに反映しやすい。九分丈のジャケットも、ウールの袖丈も、ファスナーの形も、全部に理由があります。

そして最後に、少し考えるような表情でこんなことをおっしゃっていました。

> 「山のスペックが当たり前になりすぎて、自分たちは上手に伝えられていない。山のために作られたものが、実は日常でもとても使いやすいのに、そのことがあまり知られていない」

値段が上がらないのには5年分の理由がある。ファスナーひとつにも理由がある。直して長く使ってほしいと、本気で思っている。

そう知ってから手に取ると、同じ服が少し違って見えます。

---

今回いちばん驚いたのは「修理あとが見つけられない」でした。皆さんはどの話が意外でしたか。動画のコメント欄でも教えていただけると嬉しいです。

なお、本記事は新製品発表会に招待いただいて取材した内容をまとめたものです。金銭の授受はなく、掲載内容についてメーカーからの指定も受けていません。

Comments / 視聴者の声

動画へのコメント

YouTubeに寄せられたコメントより

@443iwasaki2026.08.07

モンベル2026秋冬展示会。 今回お話を伺っていて、一番心に残ったのは「一つひとつの製品に理由がある」ということでした。 皆さんが使っているモンベル製品で、 「こういうところが好き」「こんな工夫が便利だった」 というものがあれば、ぜひ教えてください😊 私もまだまだ知らないことがたくさんあるので、コメントで情報交換できたら嬉しいです✨

10
@ぼちぼっち-z8g2026.08.07

モンベルがより好きになりました! 素敵な動画ありがとうございます😊

10返信 1
@ひろくん-n3d2026.08.07

2026年秋冬新製品発表会の動画幾つか見たけど、この動画が一番良かったよ。

3返信 1
@あっくん坊や2026.08.07

いい内容でした.益々モンベルが大好きになりました。

3返信 1
@tadi-r9e2026.08.08

物価高のなか素材を向上させつつ値下げを果たす企業努力と、お豆腐屋さんやビジネスマンなど現場の声から七分丈やファスナーの工夫を生み出す姿勢に深く感銘を受けました。「直して長く使ってほしい」という温かい理念にも溢れており、一着の服への見方が変わる素晴らしい内容です。貴重な開発秘話や心温まる現場の声を丁寧な取材で届けてくださった動画投稿者さまに、心より感謝申し上げます。

2返信 1
@桜香彩栄2026.08.07

全身モンベルおばさんの私です。 モンベルの展示会の動画をたくさんの方が出していますが、岩崎さんの今回の動画は更に深く、詳しく落ち着いてゆっくり見られる動画でした。ありがとうございます。

5返信 1
▶ YouTubeでコメントする →

← 記事一覧へ