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富士山は「登りやすい」が一番危ない|暴風雨で撤退した私が伝える本当のリスクと安全準備
2025.08.04
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夏の登山シーズンが近づくと、毎年たくさんの人が「一度は登ってみたい」と富士山を目指します。標高3,776m、日本一の山。整備された登山道、立ち並ぶ山小屋——その情報の多さから、富士山は「初心者でも登りやすい山」と思われがちです。
でも、この「登りやすい」というイメージこそが、一番危険なのかもしれません。2024年には開山直後から死亡事故が相次ぎ、異常事態とも言われました。私自身、2回目の富士登山で暴風雨に遭い、山頂を目前にして撤退するという、忘れられない経験をしています。
この記事では、その撤退体験を通して、これから富士山に登る人に一番知っておいてほしい「本当のリスク」と、命を守るための準備・判断についてお伝えします。
晴天から一転、暴風雨へ——富士宮ルートで起きたこと
この日登ったのは富士宮ルート。前回の吉田ルートとは違う表情を見たくて選びました。スタート時の空は青く、ご来光への期待に胸を膨らませていました。けれど天気予報はあまり良くなく、「悪くなりそうだな」と心のどこかで不安を抱えながらの出発でした。
その不安は的中します。新7合目あたりで雨が降り出し、レインウェアを着用。さらに風が強まり、岩で風をしのぎながら少しずつ進むしかない状況になりました。一瞬だけ雲が切れて青空がのぞくこともありましたが、それも束の間。あっという間に飲み込まれるように、あたりは真っ白になっていきました。
富士山は周囲に高い山がない独立峰です。だからこそ、麓と山頂とでまるで別世界のように気象が変わります。山頂付近では風速15mを超える強風が吹き、雷や急な雨にも見舞われやすい。8合目でとうとう雨が本降りになり、登るにつれて風も雨も強くなって、手がかじかんで感覚がなくなってきました。
真夏でも、山頂の気温は5度前後。夜明け前には氷点下になることもあります。雨や汗で衣服が濡れた状態で強風にさらされると、体感温度は一気に下がり、低体温症のリスクが著しく高まります。風が強すぎて前に進めない——そんな中、びしょ濡れになりながら、やっとの思いで山小屋にたどり着きました。
「山頂を諦める」という、勇気のいる決断
その夜は8合目の山小屋へ。冷え切った体に温かい食事がしみて、ようやく人心地つきました。「明日は2時頃に起きて様子を見て、雨がひどければそのまま下りよう」——そう決めて横になったものの、寒さと雨風の音で眠れず、不安な夜を過ごしました。
翌朝になっても、天候が回復する気配はありません。さらに私たちはツアー参加で、帰りのバスの時間が決まっていました。天候の回復を待つ余裕はない。山頂はもう目前。それでも、安全を第一に考え、山頂へ行くのを諦めて下山することを決めました。
「ここまで来たのに」という気持ちが、ないと言えば嘘になります。でも、山は逃げません。登るか、引き返すか——この判断こそが、何より大切なのだと、このとき痛感しました。
風速20m超の下山、そして山小屋の温かさ
下山は、想像を絶する過酷さでした。下りでは風速20mを超え、体が持っていかれそうになる場面も。叩きつけるような雨はあられ混じりになり、顔に打ちつけてきます。立っていられず、飛ばされそうになってしゃがみ込みながら、一心不乱に下りました。
手の冷えがひどく、エマージェンシーシートを切って手をカバーしてしのぎましたが、「次はちゃんと準備してこよう」と強く反省しました。
下山の途中、印象的な出会いがいくつもありました。8合目を過ぎたあたりで前を歩いていたのは、外国人の親子連れ。小学生くらいの小さな子が、一歩一歩懸命に下りていく姿に、思わず胸が熱くなり、勇気をもらいました。一方で、7合目あたりではこの荒天の中を山頂へ登っていく人たちの姿もあり、正直、驚きを隠せませんでした。
靴の中までぐちゃぐちゃになりながら、なんとか6合目まで。途中、山小屋に立ち寄ろうとしても、どこも張り詰めた空気で入りづらい雰囲気でした。それでも最後の望みをかけてたどり着いた6合目の山小屋で、私たちは思いがけず温かく迎え入れてもらえました。家族で切り盛りされているその小屋の優しさは、冷えた体だけでなく、すり減った心までそっと癒してくれました。
通行止めで「陸の孤島」に
ほっとしたのも束の間でした。富士山が通行止めになり、帰りのバスが入ってこられないというのです。私たちは、文字通り「陸の孤島」に取り残されてしまいました。
6時間待っても通行止めは解除されず、「今日は帰れない」と告げられ、まさかの山小屋にもう一泊。絶望感を抱えつつも、「こんな経験、なかなかできない。楽しもう」と気持ちを切り替えました。その後、状況が二転三転し、突如出た臨時バスでようやく市街地まで戻ることができました。
自然の力の前に、人間はあまりにも無力だ——そう痛感した出来事でした。
富士山が本当に怖い理由——気象データの「空白」
富士山は「登りやすい」と思われがちですが、3,776mの過酷な山です。夏山でも山頂の気温が氷点下に達することがあり、適切な装備を持っていても、激しい雨で低体温症を発症して救助された事例が報告されています。
そして見落とされがちなのが、富士山には安全に直結する気象データの「空白」があるということ。風速や降水量といった、登山の安全に欠かせない気象庁の公式データが、十分に提供されていないのが現状です。2004年に富士山測候所が無人化されたことで、リアルタイムの風や雨の情報を気象庁がカバーしきれていないのです。
そのため今は、「てんきとくらす」のような民間団体が独自の観測データや登山指数を公開し、登山者を支えてくれています(富士山の防災気象情報「イマフジ」なども参考になります)。ただし、これらの情報も夏の登山シーズン限定で、シーズン外はリアルタイム情報が途絶えます。
だからこそ、複数の情報源を確認し、現地の空模様に常に気を配ることが大切です。雲の動き、風の強さ、空の色——最後はあなたの五感が、何よりも確かな予報になります。登るか、引き返すか。その判断が、あなたの命を守る最も大切な選択です。
2025年から変わった、富士登山のルール
高山病(頭痛・吐き気・倦怠感)や低体温症、そして弾丸登山・軽装登山といった高リスクな行動は、多くの事故の原因になっています。計画や準備の不足も、事故の根底にあります。
こうした状況を受けて、2025年から、4つの登山ルートすべてで新たな規制が導入されました。
- 全ルートでの通行料(4,000円)の義務化
- 時間帯による登山道のゲート閉鎖(午後の遅い時間〜未明の登山を制限し、弾丸登山を抑制)
- 登山者の事前登録の義務化
いずれも、弾丸登山の撲滅をはじめとした安全対策が目的です。ルールは年によって見直される可能性があるので、実際に登る前には必ず公式サイトで最新の情報を確認してください。
この経験で得た、一番大切な教訓
最後に、私がこの撤退から学んだことをまとめます。
- 準備は万全に——装備の不足は、そのまま命のリスクになります(手の防寒一つでも軽視できません)
- 持病のある方は、早めの判断を——無理を重ねてからでは遅いのです
- 「行くか引き返すか」の見極めを慎重に——撤退は負けではなく、賢明な選択です
- 安全な選択肢を、何よりも一番に
そしてもう一つ。私のようにツアーの予定(バスの時間など)に縛られると、どうしても判断が鈍りがちです。プランと予算には余裕を持つこと。これも、安全のための立派な準備のひとつだと、身をもって学びました。
富士山は、正しく準備し、謙虚に向き合えば、一生忘れられない景色を見せてくれる山です。この記事が、あなたの富士登山を無事に終えるための「一番大切な準備」の一助になれば幸いです。

